平成20(受)468不当利得返還等請求事件(最高裁) - 関連判例解説
裁判年月日
平成21年01月22日原審事件番号
平成19(ネ)3941(東京高裁)判示事項
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点裁判要旨
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する。参照法条
民法166条1項,民法703条,利息制限法1条1項全文
主文本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山口正徳の上告受理申立て理由について
1 本件は,被上告人が,貸金業者である上告人に対し,基本契約に基づく継続
的な金銭消費貸借取引に係る弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号
による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の利息の制限額を超えて利息とし
て支払われた部分を元本に充当すると,過払金が発生していると主張して,不当利
得返還請求権に基づき,その支払を求める事案である。
上告人は,上記不当利得返還請求権の一部については,過払金の発生時から10
年が経過し,消滅時効が完成していると主張して,これを援用した。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
貸主である上告人と借主である被上告人は,1個の基本契約に基づき,第1審判
決別紙「法定金利計算書⑧」の「借入金額」欄及び「弁済額」欄記載のとおり,昭
和57年8月10日から平成17年3月2日にかけて,継続的に借入れと返済を繰
り返す金銭消費貸借取引を行った。
上記の借入れは,借入金の残元金が一定額となる限度で繰り返し行われ,また,
上記の返済は,借入金債務の残額の合計を基準として各回の最低返済額を設定して
毎月行われるものであった。
上記基本契約は,基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の
利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の
借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充
当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。
3 このような過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれ
る限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金に係る不当利得返還請
求権(以下「過払金返還請求権」という。)を行使することは通常想定されていな
いものというべきである。したがって,一般に,過払金充当合意には,借主は基本
契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点,すなわち,基本
契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していれば
その返還請求権を行使することとし,それまでは過払金が発生してもその都度その
返還を請求することはせず,これをそのままその後に発生する新たな借入金債務へ
の充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そう
すると,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引におい
ては,同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり,過
払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。
借主は,基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので,一方
的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ,その時点において存
在する過払金の返還を請求することができるが,それをもって過払金発生時からそ
の返還請求権の消滅時効が進行すると解することは,借主に対し,過払金が発生す
ればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取
引を終了させることを求めるに等しく,過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反
することとなるから,そのように解することはできない(最高裁平成17年(受)
第844号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,最高
裁平成17年(受)第1519号同19年6月7日第一小法廷判決・裁判集民事2
24号479頁参照)。
したがって,過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引
においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請
求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,
同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。
4 これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,本件において前記特段
の事情があったことはうかがわれず,上告人と被上告人の間において継続的な金銭
消費貸借取引がされていたのは昭和57年8月10日から平成17年3月2日まで
であったというのであるから,上記消滅時効期間が経過する前に本件訴えが提起さ
れたことが明らかであり,上記消滅時効は完成していない。
以上によれば,原審の判断は結論において是認することができる。論旨は採用す
ることができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官泉徳治裁判官甲斐中辰夫裁判官涌井紀夫裁判官
宮川光治裁判官櫻井龍子)
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